短期滞在手術について
★対象疾患
①鼠径ヘルニア(脱腸)とは
鼠径ヘルニアとは本来ならお腹の中にあるはずの腹膜や腸の一部が、多くの場合、鼠径部の筋膜から出てくる病気です。
鼠径ヘルニアといっても聞き慣れない人もいるかもしれませんが、脱腸とも呼ばれてきました。
「鼠径部」とは太ももの付け根の部分のことをいい、「ヘルニア」とは身体の組織からはみ出した状態をいいます。
私たちの体の表面は、皮膚が覆っており、その下に皮下組織、筋肉、腹膜があり、その内側が腹腔内(胃や小腸、大腸、内臓脂肪などがあるところ)になっています。普段お腹に力を入れても、お腹の中の物が外に飛び出してこないのは、筋肉(腹筋)が外から支えてくれているからです。
鼠径ヘルニアは乳幼児から高齢者まで幅広く起こりうる病気です。乳幼児の場合は先天的な要因がほとんどですが、成人の場合は運動不足も含め、身体の組織が弱くなることが要因です。
中年以上の男性に多く見られ、立ち仕事をしている人や便秘症・肥満気味の人に多ようです。今日の日本では子供が少なくなり、お年寄りが増加傾向にあるので、大人の鼠径ヘルニアが増加傾向にあります。

②鼠径ヘルニアの種類
鼠径ヘルニアを起こしやすい部分は片側に3ヶ所ずつあります。 部位により外鼠径ヘルニア、内鼠径ヘルニア、大腿ヘルニアと呼ばれます。
1)外鼠径ヘルニア | 幼児と成人に発生するほとんどが外鼠径ヘルニアです。 鼠径部の外側が膨らんできます。 |
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2)内鼠径ヘルニア | 中年以後の男性に多いヘルニアです。 鼠径部の内側が膨らんできます。 |
3)大腿ヘルニア | 女性に多いヘルニアです。 鼠径部の下の太ももの付け根が膨らんできます。 |

3ヶ所のいずれかから脱出する場合もあれば、2ヶ所以上が合併することもあります。
③鼠径ヘルニアの症状
1)ヘルニア状態
初期では、お腹に力をいれた時(重いものを持った時や立ち上がる時)に、足の付け根の部分に膨らみを感じ、違和感があります。寝転がったり、手で押さえると引っ込みます。この段階では痛みは感じることは少ないです。 脱出が大きくなってくると「長時間立っているのがつらい」「時々痛みを感じる」「お腹が張った感じがする」などの症状がでてきます。
2)嵌頓(かんとん)状態
脱出した腸管がお腹に戻る場合は問題ありませんが、時として戻らなくなる時があります。これを嵌頓(かんとん)ヘルニアといいます。この場合、脱出した腸管に血流が行かなくなり、腸の組織が死んでしまい(壊死(えし))、緊急手術が必要になります。
鼠径ヘルニアを放置していると、この嵌頓ヘルニアになってしまう危険性があります。嵌頓はいつ起こるのか予想できません。腸の壊死があった場合には腸を切除しなくてはならないこともあり、長期の入院が必要になります。普段の数倍の大きさなり、戻らない時にはすぐに救急病院を受診してください。

④鼠径ヘルニアの治療方法
鼠径ヘルニアの治療は手術以外にありません
昔は脱腸帯(ヘルニアバンド)と呼ばれるもので、身体の外から腹壁を押さえ(腹筋の補助)、脱出を押さえることもしていました。これは治療ではなく押さえているだけですので、バンドを外すとヘルニアとなり、飛び出してきてしまいます。
大人(成人)の鼠径ヘルニアは自然に治ることはありません。
現在は手術で弱くなった腹壁を補強します。補強の仕方によって、いくつかの術式があります。主流は人工メッシュを用いて、弱くなった部分を補強する方法です。
補強には人工メッシュを用います。人工メッシュの挿入の仕方によって、様々な術式があります。当院では、前方アプローチで腹膜前腔に達するDirect Kugel 法を標準としています。
- ● 全身麻酔で行います。
- ● 鼠径部を約6㎝切開し、人工メッシュを入れます。

前立腺癌術後や再発症例など、困難な症例では、腹腔鏡にて腹腔内からの観察を併用しながら治療する、hybrid Direct Kugel法を行います。
⑤標準的な手術前後の経過
- 1)基本的に1泊入院で手術を行います。事前に術前検査を行い、入院当日に手術を行います。(希望があれば前日入院や日帰り手術も可能です。)
- 2)術後、麻酔が切れてくると痛みが出てきます。頓用の痛み止めを用意しています。
- 3)手術翌日、傷の確認後、退院可能です。(希望があれば入院の継続は可能です)
- 4)手術翌日からシャワーは可能です。入浴は術後3日目から可能です。長時間の入浴は避け、つかる程度にしてください。
- 5)家事、デスクワークは退院後すぐから可能ですが、原則として4日間は休養してください。
- 6)ウォーキング、自転車は術後2週間を過ぎてから、激しい運動は術後4週間を過ぎてから開始してください。

①胆石症・胆嚢ポリープについて
1)胆石症とは
胆嚢や胆管の中に存在する石のことを胆石といいます。場所によって胆嚢結石、総胆管結石、肝内胆管結石と呼びます。胆管結石の中には、胆嚢内で石ができ、これが胆管に落下したものもあります。


2)胆石症の頻度
日本人の10人に1人(40歳以上では7人に1人)が持っていると言われています。また胆石症を持っている人の100人に1人にがんが見つかります。
3)胆石の成分
以前はビリルビンを主成分とするものが多かったようです。近年は日本人の食生活の変化に伴いコレステロールが主成分となっているものが増え、約80%の症例はコレステロール結石です。
4)胆嚢ポリープについて
胆嚢ポリープは胆嚢の壁にできる小さなイボです。症状はほとんどなく、検診や他疾患の検査中に見つかることが多いです。
ポリープが良性か悪性かを区別する必要があります。しかし、胆嚢は胃や大腸と違って直接カメラで組織をとることができません。(胆管が数ミリと細いため、直接カメラが入りません)これまでの研究で、1㎝を越えるようなポリープは悪性の可能性があるため、切除する方がよいとされています。
②胆石症の症状
代表的な症状は食後の上腹部(特に右季肋部)の痛みや背部、肩の痛みがあります。全く症状がなく、健診で指摘される方もいます。胆汁の出口である胆嚢管で結石が詰まると、胆汁に細菌感染が起こり、胆嚢炎や胆管炎をお越し、時として重篤な状態になります。炎症が強いと腹膜炎や肝腫瘍に至ることもあります。胆管は十二指腸への出口付近で膵管と合流しています。胆石がこの部分で詰めると、膵炎を起こすこともあります。これも重篤な状態に至ります。
③胆石症の治療
胆石症の治療として、外科治療と内科的治療があります。内科的治療としては胆石を溶かす方法(胆石溶解療法)と胆石を砕いてしまう方法(体外衝撃波結石破砕術)があります。
1)胆石溶解療法
内服薬で胆石を溶かすことを目的とした方法です。確実性がないこと(石の種類によります)また、治療に長期間を要すること、再発の可能性が高いことから、現在では一般的な治療法ではありません。
2)体外衝撃波結石破砕術
体外から衝撃波を集中させ、結石を破砕する方法です。うまく破砕され、胆管から排出されるといいのですが、結石が胆管に落下し、閉塞すると、先に述べた重篤な胆管炎や膵炎を併発する危険性があり、現在ではあまり行われません。
3)外科的治療(胆嚢摘出術)
胆嚢結石症に対する最も確実な方法です。胆石ができる場所(胆嚢)ごと摘出するので、再発の危険性は低くなります。(まれに肝内結石を再発される方がおられます)胆嚢を摘出することのデメリットとして、胆汁を貯蓄できないことが挙げられます。これにより術後下痢になりやすい方もいます。(特に脂肪成分の多い食事を摂取した後)しかし、ほとんどの方の日常生活は術前と変わりません。また、下痢になりやすい方も徐々におさまっていく傾向にあります。
4)腹腔鏡手術と開腹手術
手術のアプローチの仕方には2種類あります。腹腔手術と開腹手術です。従来はお腹を大きく開けて手術を行っていました。(開腹手術:A、B)近年、医療機器の進歩により、お腹に小さな穴をあけて、ここからカメラ、操作器具を挿入して行う腹腔鏡手術(図C)が標準的となっています。腹腔鏡手術の利点として、①創が小さいこと②術後の痛みが小さいこと③術後の回復が早いことが挙げられます。デメリットとして術者の指先の触覚がないことが挙げられます。
当院では標準術式として、より整容性に優れた単孔式(+α)腹腔鏡下胆嚢摘出術(図D)を施行しております。単孔式は、より高度な技術を必要としますが、術後の傷はより目立ちにくくなっています。

ただし、腹腔鏡手術は全ての方に適応があるわけではありません。また、腹腔鏡手術で開始したものの、様々な理由でポートを追加することや、開腹手術に移行することもあります。
④標準的な手術前後の経過
- 1)外来で検査が終わっている場合、手術前日に入院していただきます。
- 2)術後は翌日から食事を開始し、3-4日目に退院される方が多いです。(希望があれば入院の継続は可能です)開腹手術になった場合でも7-8日目に退院される方がほとんどです。
- 3)シャワーは術後2日目から可能です。入浴は術後2週間してからにしてもらっています。
- 4)家事、デスクワークは退院後すぐから可能ですが、原則として4日間は休養してください。
- 5)ウォーキング、自転車は術後2週間を過ぎてから、激しい運動は術後4週間を過ぎてから開始してください。
