臨床工学室について
安心、安全な質の高い医療の提供をめざして
臨床工学技士(CE:Clinical Engineer)は医療機器の専門家として生命維持管理装置(人工透析装置・人工心肺装置・人工呼吸器など)の操作および保守点検を行なっています。人工透析センターでの血液浄化療法をはじめ、手術室での人工心肺装置を用いた心臓血管外科手術や手術支援ロボット(da Vinci Xi)を用いた手術対応、心臓カテーテル/ペースメーカ業務、集中治療室での補助循環装置や血液浄化療法および人工呼吸療法、内視鏡センター業務、医療機器管理業務と多岐にわたり業務にあたっています。当院では臨床工学技士が24時間常駐することで、トラブルや緊急対応時には迅速に対応できる体制をとっています。
また、他職種に向けた医療機器の取扱い講習会を定期的に開催することでより安全な医療の提供に努めています。
業務案内
透析室業務
当センターは全26床でHD(血液透析)やon-line HDF(血液透析濾過)を中心に透析療法を実施しています。その他の血液浄化療法では潰瘍性大腸炎やクローン病に対する顆粒球除去療法(GCAP)や閉塞性動脈硬化症の患者に対するレオカーナ®を用いたLDLコレステロール吸着療法、難治性腹水症に対して腹水濾過濃縮再静注法(CART)など各種血液浄化療法にも対応しています。
各種治療に対して透析回路の準備から透析時の穿刺・回収だけでなく血圧測定をはじめとする透析治療中の管理にも携わっています。また透析関連機器(透析用監視装置、水処理装置、透析液供給装置)の保守・管理業務や透析液の水質管理および調整を行い、透析治療の質の向上と安全管理に努め、医師や看護師と連携し安全な血液浄化療法を提供できるように努めています。
①人工透析(HD/On-line HDF)
腎臓は老廃物や毒素の排出だけでなく体の水分量や電解質の調節やホルモン分泌の調整を行うなど非常に重要な働きをしています。腎臓が悪くなってしまうとこれらの機能が正常に働かなくなるので、その機能を補うのが透析治療です。人工透析は専用の針とチューブを使って体外に血液を取り出し、ダイアライザーと呼ばれる人工の腎臓を用いて老廃物や毒素の排出、水分量や電解質の調整を行い調整した血液を体に返す治療になります。一回の治療時間は4~5時間で通常週に3回を隔日で治療します。当院では外来通院・入院患者様の維持透析治療を中心に行っています。
②顆粒球除去療法(GCAP)
粘膜に炎症や潰瘍をきたす潰瘍性大腸炎やクローン病に対する治療です。GCAPは透析治療と同様に腕に針を刺し体内から血液を取り出し、血液から炎症に関与している顆粒球を吸着器で除去したのち血液を体内に戻します。一回の治療は60-90分程度になります。
③LDLコレステロール吸着療法
当院では2021年より保険承認されたレオカーナ®によるLDL吸着療法を行っており、レオカーナは手術による治療が困難な潰瘍を有する閉塞性動脈硬化症に対し行なう治療法になります。レオカーナはLDLコレステロールおよびフィブリノーゲンを吸着する事によって下肢の血流改善を促し難治性潰瘍を治療する事を目的としています。透析治療やGCAPと同様に針を刺し体外に血液を取り出しレオカーナによってLDLコレステロールやフィブリノーゲンが除去された血液を体内に戻します。治療時間は約2時間となります。
④腹水濾過濃縮再静注法(CART)
癌や肝硬変などによってお腹に溜まった腹水を針を刺して体外へ抜き、濾過器を用いて細菌やがん細胞を取り除いた後、濃縮器を用いて腹水を濃縮しアルブミンなどの有用なタンパク成分を再び体内に戻す治療法です。
手術室業務
心臓血管外科手術における人工心肺・心筋保護液供給装置や自己血回収装置の準備および操作、必要に応じて補助循環装置の準備および操作などを行っています。ハイブリッド手術室では胸部・腹部大動脈瘤に対するステントグラフト内挿術(TEVAR・EVAR)時における清潔介助といった治療に積極的に携わっています。また手術支援ロボットda Vinciを用いる泌尿器科や産婦人科の手術においてda Vinciのセットアップおよび管理を担当しています。
手術時に使用される麻酔器をはじめ電気メス等の医療機器の点検やトラブル対応も行っています。
① 人工心肺業務
心臓血管外科手術において心臓と肺の機能を代行する人工心肺装置を操作し、手術中の循環管理を行います。人工心肺装置の他にも心臓の拍動を停止させ心筋保護をする心筋保護液供給装置や手術時に出血した血液を回収し洗浄後に返血を行う自己血回収装置等の準備や操作を行っています。
当院では人工心肺を用いる手術の際は2名以上の臨床工学技士が携わり、医師・看護師と常に連携を取りながら安全かつ円滑な手術が行えるようチームの一員として対応しています。
② ハイブリッド手術室業務
ステントグラフト内挿術(TEVAR・EVAR)は人工心肺を使わず、足の付け根の血管よりステントグラフト(ステントといわれる金属製のバネ部分をグラフトといわれる人工血管で覆ったもの)を胸部や腹部の動脈瘤部分に留置する治療法です。
臨床工学技士は清潔野に入り、手術に使用されるステントグラフトをはじめとした治療デバイスの準備や医師の介助を行っています。
③ ロボット支援業務
da Vinciは非常に精度の高い内視鏡外科手術を可能とする手術支援ロボットです。Da Vinciを用いた手術の特徴は体に小さな穴を開け行なう腹腔鏡手術や胸腔鏡手術を解像度の高い3D映像を見ながらロボットアームで操作し手術を行なう点です。また肉眼の約10倍の視野で手術が可能で、ロボットであるため手振れ等もないことから複雑で繊細な手術が可能です。
当院では2023年より最新機種であるda Vinci Xiを導入し泌尿器科および産婦人科の手術で使用しています。
臨床工学技士はda Vinci専用の手術器具やカメラの管理、機器のセットアップ、トラブル対応や保守管理を行っています。
心臓カテーテル/CIEDs(植込み型心臓電気デバイス)業務
心臓カテーテル/CIEDs業務では心臓カテーテル検査室での各種造影検査や血管内治療、またアブレーション治療やペースメーカを用いた不整脈治療など幅広く検査および治療を行っており、カテーテル治療ではポリグラフや血管内超音波装置(IVUS)など数多くの医療機器を使用するため臨床工学技士は各医療機器の操作や、清潔野で医師の介助を行っています。
また緊急時には補助循環装置(IABP・ECMO)の準備や操作も行っています。
① 心臓カテーテル業務
心臓カテーテル検査はカテーテルと呼ばれる太さが2-3mm程度の専用の細い管を手首や肘、足の付け根の血管から心臓の重要な血管である冠動脈の入口まで挿入し、造影剤を冠動脈へ直接注入することで、冠動脈の狭窄や動脈硬化を評価する検査です。冠動脈に狭窄があった場合は冠動脈に専用のバルーンやステントを用い血管を広げる治療を行います。臨床工学技士は12誘導心電図や血圧、動脈血酸素飽和度などの監視や記録、治療に必要な物品を準備するだけでなく、清潔野に入り医師の介助も行い円滑な治療ができるよう努めています。
② アブレーション業務
アブレーションとは、発作性心房細動(Paf)や発作性上室性頻拍(PSVT)、心室頻拍(VT)といった脈が速くなる頻脈性の不整脈に対し、原因となる異常心筋やその周囲を専用のカテーテルで焼灼し不整脈を治す治療法です。カテーテルアブレーションではカテーテルで焼灼する際に高周波電流を流すための機器であるアブレータだけでなく、心臓の電気刺激を解析・監視を行うポリグラフ、頻脈発作を誘発させるスティムレーターや心臓の電気の流れを立体的に捉えることのできる3Dマッピング装置(CARTO®システム)といった様々な機器を使用します。臨床工学技士は実際にこれらの機器を操作し治療のサポートを行っています。
③ CIEDs(植込み型心臓同期デバイス)業務
ペースメーカ(PM)、植込み型除細動器(ICD)、心臓再同期療法(CRT-P/CRT-D)といった機器の総称をCIEDs(植込み型心臓同期デバイス)と言います。ペースメーカは徐脈(心拍が少ない状態)の治療、植込み型除細動器は心室細動などの命に係わる重篤な不整脈の治療、心臓再同期療法は心臓の動きが悪くなっている重症心不全の治療に使用されます。当院ではこのうちペースメーカを用いた治療を行っており、心臓カテーテル検査室での植込み手術からその後の定期受診時のペースメーカの動作チェック、またMRI検査撮像時の対応も行っています。
集中治療室業務
集中治療室は手術後の患者様や呼吸・循環・代謝等の機能が急に悪くなり、命に関わる患者様を集中的に治療する場所になります。集中治療室ではこれらの呼吸・循環・代謝の機能を代替する様々な医療機器を使用します。臨床工学技士は人工呼吸器をはじめ、血液浄化装置や補助循環装置(ECMO・IABP)といった命に直結する生命維持管理装置を操作および管理をしています。
また臨床工学技士は24時間院内に常駐しているのでトラブルや緊急時に迅速な対応が可能です。
① 急性血液浄化療法業務
当院では術後、集中治療室での透析や重症患者様に対するCRRT(持続的腎代替療法)を行っております。急性血液浄化療法の大半はCRRTですが、その他にも敗血症に対するエンドトキシン吸着療法(PMX-DHP)や劇症肝炎などに対する血漿交換療法(PE)などの特殊血液浄化療法にも対応しています。臨床工学技士はこれらの治療の準備から開始、設定の変更や回路交換などの業務を行っています。
② 人工呼吸療法業務
人工呼吸器は呼吸機能を代行する生命維持管理装置であり機械にトラブルが生じた場合、患者様の命に直結する非常に重要な機械です。臨床工学技士は使用前点検を確実に行なうことで緊急時でも早急に人工呼吸器が使用できる状態にしています。またチェックリストをもとに人工呼吸器の使用環境や動作状況、設定条件と実際の治療中のデータを確認することで人工呼吸器が安全かつ異常な動作をしていないか確認をしています。
③ 補助循環業務
重篤な心不全や呼吸不全では補助循環装置と呼ばれる機械を用いて治療を行います。太ももの動脈から特殊なバルーンを挿入し、そのバルーンを大動脈の中で拡張・収縮させることで血圧を維持する大動脈内バルーンパンピング(IABP)や、太ももの血管に太いチューブを挿入し、遠心ポンプや人工肺と呼ばれる特殊な装置を用いて体外循環を行うことで肺と心臓の機能を代行するECMOといった装置が補助循環装置です。臨床工学技士はこれらの装置の準備や管理を行っています。当院では臨床工学技士が24時間常駐しており、補助循環装置が必要な際の対応やトラブル時においても迅速に対応できる体制を取っています。
医療機器管理業務
臨床工学室では人工呼吸器や輸液/シリンジポンプをはじめ、患者監視装置や低圧持続吸引器などの医療機器を中央管理しています。これらの医療機器は使用後に臨床工学室で点検を行なうことにより病棟で必要時いつでも使用できる準備をしています。機器の貸出棚と返却棚を分け、貸出・返却時には専用のソフトを使用する事ことで無人で貸出・返却を行えるようにしています
また点検は使用前点検だけでなく、定期点検を実施することでより安全に使用できるよう努めています。使用中に発生したトラブル対応も行っておりその都度、必要に応じ修理や点検を行なっています。
また他職種に向けた医療機器の取扱い講習等も実施することで、安全な医療の提供に努めています。
内視鏡センター業務
内視鏡センターでは内視鏡(ファイバースコープ)を用いて胃や十二指腸、大腸などの検査および治療を行っています。内視鏡センターでは内視鏡装置をはじめ送気装置や光源装置など多くの医療機器を使用しており、臨床工学技士はこれら機器の使用前点検だけでなく、検査時の内視鏡の準備や使用した内視鏡の洗浄や消毒等の片付けまで一貫して行っています。
また当院ではERCP(内視鏡的逆行性膵胆管造影法)やESD(内視鏡的粘膜下層剥離術)などの専門的な治療も行っており臨床工学技士が治療の介助に入り処置具の操作等を行っています。
スタッフ紹介
臨床工学技士:19名(男性11名 女性8名)
取得資格
血液浄化関連専門臨床工学技士 | 1名 |
補助人工心臓管理技術認定士 | 1名 |
臨床ME専門認定士 | 1名 |
透析技術認定士 | 2名 |
体外循環技術認定士 | 2名 |
3学会合同呼吸療法認定士 | 2名 |
認定集中治療関連臨床工学技士 | 1名 |
認定血液浄化関連臨床工学技士 | 1名 |
消化器内視鏡技師 | 1名 |
医療情報コミュニケータ(MDIC)認定 | 1名 |
所属学会
- 日本臨床工学技士会
- 大阪府臨床工学技士会
- 兵庫県臨床工学技士会
- 日本体外循環技術医学会
- 日本集中治療医学会
- 日本消化器内視鏡技師会
- 近畿消化器内視鏡技師会
- 日本医療機器学会
- 日本人工臓器学会
- 日本生体医工学会
- 日本不整脈心電学会